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「倒産したら、人生は終わり」
そう考えている人は多いのではないでしょうか。

しかし、倒産も貴重な経験の1つ、そうした考えを広めようと奮闘している人がいます。

「失敗に寛容な日本に」その思いを取材しました。(経済部記者 岡谷宏基)

「倒産は、終わりじゃない」 | NHK | ビジネス特集

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「倒産は、終わりじゃない」

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「倒産は、終わりじゃない」

2022年6月6日 19時19分

「倒産したら、人生は終わり」
そう考えている人は多いのではないでしょうか。

しかし、倒産も貴重な経験の1つ、そうした考えを広めようと奮闘している人がいます。

「失敗に寛容な日本に」

その思いを取材しました。
(経済部記者 岡谷宏基)

取材に応じてくれたのは

「当時は怖いもの知らずだった」
そう語るのは、清水秀次さん、57歳です。

7年前、立ち上げた会社が倒産し、自殺を考えるまで追い詰められました。

「いろいろな人に迷惑をかけてしまったが、倒産の経験を伝えることで、倒産の負のイメージを少しでも変えていければ」と取材に応じてくれました。

清水秀次さん

美容師として15歳でキャリアをスタートさせた清水さん。

転機は33歳の時でした。

炭の成分を活用した真っ黒なシャンプーを開発したのです。

洗浄力が高く、肌荒れも抑えられると、売り込みに奔走しますが、当時は真っ黒なシャンプーは「汚れが落ちなさそう」と、どこも扱ってくれませんでした。

開発したシャンプーとトリートメント

ところが、テレビに取り上げられたことをきっかけに爆発的にヒット。

年に3億円を売り上げるまでになりました。

清水さん
「当時は怖いもの知らずでしたね。周りの反対を押し切って売れたことで、『俺が正しい』って変な自信がついて、どんどん数字を求めるようになってしまった」

NY進出からの転落

清水さんは、2000年、思い切ってニューヨークへ進出します。

なんのあてもなく、英語もままならないなか、家族そろっての移住。

家賃は50万円、周りは大手企業の駐在員ばかり。

すっかり「成功者」の気持ちだったと振り返ります。

ニューヨーク時代の清水さん

清水さん
「現場で働く人や稼ぎが少ない人を見下していましたね。周りの話も聞いていなかった」

しかし、ここから事業は一気に下り坂へと向かいます。

製品を日本から空輸すると1本50ドルもかかり、高すぎて売れません。

ならば、と現地メーカーに製造を依頼しましたが、期待した品質の商品は一向にできませんでした。

結局、なにもできないまま、3年で日本へ戻ってくることになりました。

「死のうと思った」

シャンプーは国内ではまだ売れ続けていたものの、一時の勢いはなくなっていました。

そこで、再起をかけて開発したのがシャワーヘッドでした。

開発したシャワーヘッド

ヘッドのなかで対流をおこすことによる洗浄力の強さを売りに、なんとかテレビでの紹介にこぎつけます。

清水さん
「テレビの放送日は次女の誕生日だった。『これは売れるぞ』って運命的なものを感じて、最後の賭けだと思って、在庫の準備に資金をつぎこんだんです」

しかし、シャワーヘッドは思うように売れず、抱えた在庫が負担となり、2015年、倒産を余儀なくされました。

多いときには20人あまりいた従業員もいなくなりました。

取引先や銀行、お客さん、そして個人的な知人など、多くの人に迷惑をかけてしまったといいます。

清水さん
「経営スキルのなさ、怠慢経営、判断ミスの積み重ねが原因でした。当時はまともに寝ることもできなかった。家賃、給料、仕入れへの支払い、毎月の月末が本当にこわかった」

そうしたなかで清水さんは、うつ病を発症。1年間、自宅に引きこもることになります。

75キロあった体重は55キロまで減りました。

借金取り立ての幻聴が聞こえ、家の隅で震える日が続きました。

清水さん
「朝のゴミ出しすら外に出るのがこわかった。当時は死のうと思っていたし、長男からも『お父さんは死ぬかもしれないと覚悟していた』と言われましたね」

立ち直り 新たな事業スタート

およそ1年後、転機は突然訪れます。

ある朝、ゴミ出しのために外へ出た瞬間に、突然「あ、なんか気持ちいい」と感じたといいます。

今なら、なんとか働けるのではないか。

清水さんはもう一度、原点に戻ります。

自分にはこれしかないと、美容師として働くことを決めました。

もう一度、一人一人のお客さんに向き合うなかで気づいたことがありました。

当時、働いていたのは大手チェーンの新宿にある店舗で、多くの外国人が訪れていました。

言葉が思うように通じないなかで、清水さんは指さし表を自作しました。

どんな髪型にしたいかなど、お客さんとコミュニケーションを取りながら髪を切り、感謝されたことが強く心に残りました。

2019年、新しい会社をつくり、外国人に向けた散髪をサポートする事業を立ち上げました。

苦しい姿を見せた子どもたちにも、失敗しても立ち直れるんだということを身をもって示したい、そんな思いが清水さんを動かしていました。

廃業率 低いけれど、開業率も・・・

「倒産したら、人生終わり」

みずからが倒産した経験をもつ清水さんも、当時はそう思っていたといいます。

日本では倒産に対する負のイメージが強く、一度失敗すると融資が受けづらかったり、立ち直りに精神的なエネルギーが必要だったりすること。

また、再起に向けた情報が得づらいことも課題として挙げられています。

中小企業庁のまとめによりますと、日本の「廃業率」は3.3%と、アメリカやイギリスの半分以下の水準で、一見低くていいように見えます。

しかし、「開業率」もイギリスなどに比べて半分以下の5.1%にとどまっています。

つまり、経営が苦しくても廃業になかなか踏み切れず、代わりに新しい企業も出てこないという状況です。

中小企業庁は、経済の活性化には廃業も必要で、「事業承継や企業の開廃業といった新陳代謝を通じて、中小企業が培ってきた技術や人材を次世代に引き継ぎつつ、経済全体の生産性向上を図っていくことが、今後ますます重要となってくるといえる」と指摘しています。

行政の支援もスタート 倒産後もチャレンジを

こうした中で、行政による支援も始まっています。

ことし3月、東京都が主催のビジネスプランの発表会が開かれました。

東京都「リスタート・アントレプレナー支援事業」発表会

「妊婦さんでも安心して着られるドレスを作りたい」
「爪を整えるだけではなく、ストレスも軽減させるネイルサロンを実現したい」

この日の発表者は全員、過去に倒産や事業の失敗を経験している人たちです。

この会は、東京都が行っている、再起業を目指す経営者を支援するプロジェクトの一環として行われました。

プロジェクトでは参加にあたって、倒産などの過去の経験を振り返り、足りなかった点を反省するなどして、自身の物の見方や考え方を変えるところから始めます。

そして、過去の経験を糧に、再起業をめざす経営者に対して、ビジネスプラン策定の相談、投資家との面談といった手助けを行っています。

東京都の担当者は「倒産や廃業には失敗という負のイメージが強いが、そうした経験をした人にこそ頑張ってほしい。再チャレンジできる環境を整えることで、起業しようという人が増え、結果として起業の機運を向上させたい」と話しています。

「失敗してもいいならチャレンジしよう」と思える人を増やすことで、スタートアップ企業を増やし、経済の活性化につなげたいとしています。

この2年間で、40人がプログラムを受講。10人ほどがすでに再起業を果たしています。

今年度も約2億円の予算を確保し、5月から参加者の募集を始めています。

清水さんの新たな挑戦

一方、美容師として再び立ち上がった清水さんは、倒産した経験を生かして支援する側としても活動しています。

3年前には、倒産した元経営者たちの再チャレンジを支援するボランティア団体も立ち上げました。

清水さん
「当時は『助けて』が言えず、社長の虚勢をはっていた。私は大したスキルはないけど、倒産の経験がある。経営者って鎧をまとっているんです、社長の鎧、強い夫の鎧、男性の鎧って。話をしているうちに、1つずつ鎧を脱いでいって、本当にいいおっさんが最後には泣くんです。やり直しには話を聞いてくれる人がいることが重要なんです」

この団体は、倒産を経験した経営者たちが、新しいビジネスプランを互いの経験を交えて議論する場にもなっていて、清水さん自身も、次なるチャレンジに向けた取り組みを進めています。

清水さんが立ち上げた「日本再起業支援協会」のミーティング

「みんな倒産という失敗を経験しているので、最高の壁打ちになる」と話す清水さん。

仲間とともに、4月からは、客からの暴言や執ようなクレームといったカスタマーハラスメントを減らすためのビジネスを新たに始めました。

清水さん
「倒産はいろいろな人に迷惑をかけますし、自分自身もつらい思いをするので、しないにこしたことはないと思う。ただ、昔の私は本当にワンマンで、人の話を全然きかなかったが、倒産を経験して、大きく成長ができたとも思っている。倒産して終わりではなく、そこからやり直せるんだということを伝えたい」

「失敗に寛容な日本に」

取材の中で、清水さんが話した「失敗に寛容な日本になってほしい」という言葉が印象に残りました。

倒産やそこからの立ち直りには大きなエネルギーが必要となりますが、倒産を経験したからこそ、成長できる可能性があります。

それはビジネスだけではなく、受験でも恋愛でもそうかもしれません。

失敗の経験が、前向きに受けとめられ、次に進むためのチャレンジがもっとしやすい社会になっていけばと思いました。

経済部記者
岡谷 宏基
平成25年入局
熊本放送局を経て現所属
情報通信業界を担当