メンバー

関根諒介

サポーター

関根諒介

本業
freee株式会社・倒産社長の研究
得意分野・スキル
武蔵野美術大学大学院造形構想研究科 修士課程修了 / freee株式会社

日本再起業支援協会様_寄稿_2021-12-13

近年、日本政府は経済の活性化、雇用創出を目的とした起業数増加に向けた取組に注力してきた。2013年6月に閣議決定された日本再考戦略では米国・英国並みの開業率 10%台を目標として掲げ、2014年1月に施行された産業競争力強化法においては、地域における創業を促すために、官民が連携し、創業に関するサポートを行っている。

また、人口減少・高齢化、エネルギー・環境制約などの様々な社会課題を乗り越え、日本経済 の成長力を引き上げるべく、国民所得や生活の質ならびに日本の国際競争力の向上を目的とし た「未来投資戦略2018」において、企業価値または時価総額が10億ドルを超えるユニコーン企 業を、2023年までに20社創出する目標を掲げた。

その目標実現に向け、政府はイノベーション創 出や、海外展開、リスクマネーの供給によるファイナンス等の支援に注力している。
そうした、起業の促進、ユニコーン企業の輩出を目的とした官民による積極的な支援がなされる裏側では、多くの起業家・経営者がメンタルヘルスの問題を抱えている。 UC Berkeleyの調査によると、起業家のうつ病障害罹患率は30%で、対称群である一般人の15 %と比べ、2倍となることが報告されている。

精神的な問題を抱えるリスクがある中においても、自らが設立した企業の事業成長を果たすべく日々懸命に取り組むも、その努力虚しく、事業の休廃業や倒産を余儀なくされる経営者は多く 存在する。東京商工リサーチの調べでは、2020年(1-12月)に休廃業・解散ならびに倒産した企 業は57,471件と、同社が2000年に調査を開始して以降で最多の2018年(54,959件)を抜き、最多記録を更新した[注 ]。また、倒産ならびに休廃業・解散を含めた日本の廃業率は、海外と比べると低水準である実情を踏まえ、政府は中長期的な目標として廃業率10%を目指す方針を示し ている。

メンタルヘルスに問題を抱え、自死を選ぶ経営者の多くが事業不振、多重債務、そして連帯保証債務に悩まされている事実を鑑みれば、倒産・廃業が経営者に与える精神的影響は少ないことが容易に想像出来る。大廃業・倒産時代の到来によって、事業を畳む経営者達のメンタルヘルスの問題が大きく表面化する懸念は大きい。

企業の廃業・倒産は一種の挫折と位置づけられるが、挫折に関する先行研究では「倒産」「倒 産を経験した経営者」を対象としたものは存在せず、倒産という挫折体験のプロセスや、そこから の精神的立ち直りに向けた具体的方法論は明らかになっていない。

そこで、筆者は起業から業況悪化、倒産申立・手続完了といった挫折体験に係る一連のプロセ スを理解し、経営者の挫折体験からの精神的立ち直りを促す方法論の仮説構築ならびに具体的方法論の開発・効果検証を目的とした研究を行っている。

研究は途上であるが、精神的立ち直りを促す手段として「対話」が挙げられる。倒産という挫折 を体験した経営者が、その体験を語り、聞き手との対話の中でその経験を肯定的に意味づけすることが、精神的立ち直りを促進する効果がある。これは現代の精神医療における家族療法等 の「ナラティヴ・セラピー」でも唱えられている効果である。

他者との対話を通じた経験の共創的意味生成を通じ、体験主体である倒産経験者の主体性や自由を奪う物語を更新し、新しい物語を 創造し、問題を解消することを目指す。

筆者は挫折体験を肯定的に意味づけるナラティヴのデザインについて探索的に研究しており、 人生グラフなどを用いた体験の可視化ツールと対話との組み合わせや、挫折体験を自叙伝として制作し、それを起点とした対話の可能性について検証をしている過程である。

今後においては、より多くの倒産経験のある経営者との接点を増やし、対話を通じた精神的な立ち直りを支援し、「倒産社長のウェルビーイング実現」に寄与していきたい。